魚舟・獣舟
夜は過ごし易いものの、日中はかなり蒸し暑い。背広姿で歩いちゃいけません。一昨日は背中が汗でびっしょり。こんな時には少々ぞっとするような話でも紹介するここと致しましょう。なんて言いながら、前回から未だに悩んでいる。どれにしようかなァ。考えると冷たい風が首筋に当るような世界を描くSFにしようか。夢と現の間に彷徨う幽界を描く幻想作品にしようか。さてと、どちらにいたしましょう。色々悩んでもしょうがない。夏も終わりそうだし、出し惜しんでもね。ここは、両方いっちまえと云うことで、4作品をご紹介。いやぁ、夏物在庫一掃セールじゃございません。
SFでは、上田早夕里さんの「魚舟・獣舟」(2009年1月20日初版1刷発行、光文社文庫)とJack Vance の「NOPALGARTH(ノパルガース)」(伊藤典夫訳、2009年8月15日発行、ハヤカワ文庫)。幻想では、松浦寿輝氏の「あやめ 鰈 ひかがみ」(2008年10月15日第1刷発行、講談社文庫)、長野まゆみさんの「咲くや、この花 左近の桜」(2009年3月31日初版発行、角川書店)の計4作品で、涼しんで頂きましょう。
「魚舟・獣舟」には、「魚舟・獣舟」のほか、「くさびらの道」、「饗応」、「真朱の街」、「ブルーグラス」、「小鳥の墓」が収められている。魚舟、獣舟とは何か。そして、主人公の感情の行きつく先.。人類の将来への不安が静かに積み上げっていく。それにもまして、ぞっとするのは、思い出のさざ波がそこに現れる「くさびらの道」だろうか。他にも「最先端技術と妖怪の共生を描いた「真朱の街」など、未来世界の中に潜むただならぬ雰囲気を味わえる。
「ノパルガーズ」。貴方には寄生生命体が取りついていると言われたらどうでしょう。しかも、人類の中で唯一人、この寄生体から逃れられたとしたら。しかも、そう指摘した異星人にはまた別の寄生体がいる。まァ、普通はノイローゼ間違いなし。そんな世界を思い描いただけでも厭なのに、最近の日本を見てると、本当に存在しそうな気がして一層怖い。
それでは、「あやめ 鰈 ひかがみ」へと参りましょうか。死んだはずの木原が秋葉原から上野の喫茶店へと歩いていく様から始まる「あやめ」。鰈をアイスボックスに入れた俺を乗せた電車はいつまでも走り続けている「鰈」。外神田の露地裏、うらびれた「真崎鳥獣店」、真崎の想いが暗闇の中に潜む「ひかがみ」。それぞれが微妙に絡み合い、幽界へと貴方を誘う。
最後は「咲くや この花」なのですが、これは「左近の桜」の第二作。隠れ宿「左近」の桜蔵(さくら)に纏わりつく妖しきもの達が、「迷い犬」、「雨彦」、「白雨(ゆうだち)」などなど現れる。それは夢か現か判らない。「あめふらし」、「左近の桜」に比べると、妖しいと云うよりも別の意味で怪しい雰囲気となってはおりますが、普通の男性が読めばゾッとすること間違いなし。
以上、なんだかやっつけ気分でのご紹介。おい、全く怖くないぞと言われても、作者のせいではございません。単に私の懐が寒い、いえいえ背筋が寒いだけかもしれません。
<参考>
・おそろし
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