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ミノタウロス

佐藤亜紀さんの「ミノタウロス」(2007年5月10日第1刷発行、講談社)は、「ペテルブルクのツァーリが帝位を遂われても、ミハイロフカ(架空の地名)の生活はそうは変わらなかった」と書かれているように、ロシア革命(1916~17年)前後の話である。現ウクライナ辺りが舞台。社会主義思想が徐々に浸透してきたとはいえ、なお前近代的な様相を呈するロシア農村地帯に生まれた次男が主人公である。一文無しのどん百姓の小倅ではない。ある程度の知能を有するが、自らを「本質的にけだもの」だと思っている青年は、革命後の混乱と云う迷宮に放たれる。これを虚無と呼ぶのだろうか。否、虚無でもなかろう。

Sato01「ぼくは美しいものを目にしていたのだ。-人間と人間がお互いを獣のように追い回し、躊躇もなく撃ち殺し、…」。これに比べれば、一緒にいるウルリヒの言葉の方にはまだ救いがあるか。彼は平然と言う、「やっぱりこう、太陽を背にして襲い掛かりたいね。… 格好いいじゃん」と。いずれにせよ、驚くべき作品である。

ところで、全く趣向が違うのだが、ロシア革命前夜の様子が書かれている作品としては、Brian Freemantleの「THE HOLMES FACTOR(ホームズ二世のロシア秘録)」(日暮雅通訳、平成十八年十月一日発行、新潮文庫)がある。佐藤亜紀さんの作品紹介に新潮社の本を併せて紹介するのはなんですが(笑)、これも面白い。なお、伊坂幸太郎氏の「グラスホッパー」(平成十九年六月二十五日初版発行、角川文庫)の中で「鯨」が読む本は、ドストエフスキーの「罪と罰」であった。私も大昔に読みました。あまり関係ないけどね(笑)。

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