チョコレートコスモス
■恩田陸さんの「チョコレートコスモス」(毎日新聞社、2006年3月20日発行)
以前にも書いたが、谷根千には本屋や古本カフェが多い。不忍ブックストリートマップなんてものまであった。しかしだ、キャラクターがなァ、不忍ブックストリート実行委員会の方には悪いが、今一歩である。紙魚(シミ)の生まれかわりの“しのばずくん”。不忍池に棲んでいて、お散歩と本が好きで、照れ屋。これじゃ、中年男性しか寄って来ないって(身につまされるじゃないか、嗚呼、侘し)。若い女性を呼び込まなくちゃ、ダメでしょう。でも、「チョコレートコスモス」の女性達じゃ大変。こんなエネルギーが充満してたら、男性は近寄れません。ファーブル昆虫館-虫の詩人の館-(最近出来ました)で、静かに自然の偉大さを実感して過ごすことになるのかも。
恩田陸さんもまた多才である。最近読み始めたので、こんなジャンルの作品もあるのかと驚いている。しかも、読み始めたら止められなかった。翌日お会いした方々、眠そうな顔をしていて失礼しました。本当にびっくりです。何故か吉行理恵さんの作品を思い出したのは、身内に発熱体みたいな人たちがいると、周囲は大変なんだなと納得したからかもしれない。兄に作家の吉行淳之介、姉に女優の吉行和子のいる吉行理恵さん自身も、少々暗めではあるが、詩人、作家として大成している。エネルギー不変の法則みたいなものも感じるところではある。因みに、我が家には吉行理恵さんの本もかなりあったはずなのだが、目に付くところには「男嫌い」(新潮社、1975年5月15日発行)しかなかった。さて、本作品に登場する女性達、いや女優達は、吉行理恵さんの作品に出てくる女性とは全く別種の生物である。
家族も皆役者であり、既にかなりのキャリアを積んだ東響子。彼女は「自分が優等生タイプだと言われていることを知っているし、自分でもそういうところがあると思う。周囲に求められると先回りしてそれをやってしまう。望まれる像を自ら演じてしまう」と感じていた。「自分が芝居をやりたいとか、役者になるという大それた望みは全く持っていなかった」佐々木飛鳥。彼女は「この先に、何かがある。舞台の奥にある何かをつかむことのできる何かが。そのことを本能で知ってはいたが、とにかく目の前にあることを片付け、新しい技術を覚えるので精一杯」だと思っていた。響子が芝居への衝動へと駆り立てられたとき、彼女のなかにあった「ひどく天の邪鬼で破天荒な部分」が爆発する。また、飛鳥は、あっち側の子、舞台の上の高みのほうの子であり、その天性の才を開花させようとしていた。舞台の上の緊張感、そして鳥肌の立つような女優の演技。これを映像にするのは大変だろう(女優達は逃げないだろうが)。
ところで、舞台回しみたいな男の方はと言えば、「じっと眺めていると、文字がばらばらになってきて、なぜ「ね」が「ね」なのか、なぜ「め」が「め」なのか分からなくなってくる」なんて小児的なことを思いながら、なかなか脚本の原稿が書き始められない(まァ、分かるけどね)。「忘れていた衝動が、身体の底で蠢き始める」なんて言っても、所詮は観客でしかない。何にでもなれる女性達とはまるで違う存在なのだ。さてと、ひらがなの話が出てきたし、女優の話も出てきたので、次は奥田英朗氏の「町長選挙」でも紹介しようかな。何故かって、それは次回を読んで頂ければ、お判りになるでしょう。私にはやっぱりコメディが似合うのかも(笑)。
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Comments
>「じっと眺めていると、文字がばらばらになってきて、なぜ「ね」が「ね」なのか、なぜ「め」が「め」なのか分からなくなってくる」なんて小児的なことを
あ。ひでー
( ̄□ ̄;)
「小児的」っていわれちゃった。そんじゃ「ね」と「め」はよく似てるとか、「ゐ」はそのおじいさんに違いないとかフツーに思ってるオレの立つ瀬がないじゃないですか!
Posted by: koolpaw | May 07, 2006 21:54
koolpawさん、おはようございます。
「ね」と「め」とが似てるとか、「ゐ」はその親戚とか思うのはいいんですよ。フツウかどうかは別として(笑)。 ⇒http://mit56.way-nifty.com/dawn/2005/05/post_91a2.html">二十億光年の孤独の「世代」
原稿の書けない言い訳にしているところが、困ったちゃんなんですね(笑)。dより
Posted by: dawn | May 08, 2006 06:54