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知りすぎた女

■Brian Freemantleの「TWO WOMEN(知りすぎた女)」(松本剛史訳、新潮文庫、平成十八年三月一日発行)

ここ三日間、まさに五月晴れと言ったところである。風も心地よく、薫風とはよく言ったものだ。「春過ぎて 夏来るらし 白たえの 衣干したり 天の香具山」(持統天皇)の歌のように間もなく夏が来ることを予感させる季節である。まさに「夏は来ぬ」と言ったところか。そんな季節のなか、この本は少々恐ろしい話である。まァ、気温も上がっているので、いいことにしよう。物事には順番と云うものがあるし(自分勝手な順番に固執する図、笑)。それにしても、Brian Freemantleは多才である。私は「チャーリー・マフィン」シリーズの方の才が好きなのだが、恐怖を描かせてもうまい。

Freemantle02THE OCTOPUS:Europe in the Grip of Organized Crime(ユーロマフィア)上」(新庄哲夫訳、新潮文庫、平成十三年六月発行。誰だ、こんな本を私の部屋から持っていったのは?)でユーロマフィアを調べていると思ったら、何とアメリカマフィアも調べていたのですね。「ニューヨークのマフィアは、多くの捜査によって勢力が衰えたとはいえ、いまだにピラミッド型の組織を保っている。ボナーノ、ルッケーゼ、ガンビーノ、ジェノヴェーゼ、コロンボの五大ファミリーを頂点として、その下に二流でも名のあるファミリーが存在と商売を許され」ているのだそうだ。Marlon Brando(Don Vito Corleone)、Al Pacino(Michael)の顔が浮かび、ゴッドファーザーのテーマ曲が聞こえてきそうだが、本物はもっと怖いのだろう。

Freemantle物語は、国際会計事務所の後継者であるジョン・カーヴァーとジョンの愛人アリス・ベリングとの会話から始まる。ジョンは、事務所の創設者であり義父のジョージ・W・ノースコートの問題で、心を痛めているが、この時点では具体的に話はしない。ノースコートはマフィアのビジネスに絡んでいた。妻ジェーンにも、「もし彼女に父親のことを暴露したとして、自分たち夫婦の関係はもちこたえられるだろうか?」と考え、何も話せない。その後、ノースコートはマフィアに殺され、ジョンはマフィアと直接対峙することになる。その間の心理的な葛藤もなかなかにスリリングなのだが、最後の戦慄に比べればたいしたものではない。

ジョンも話さなきゃいいのに、アリスに話してしまう。「彼女(ジェーン)から憎まれ、捨てられたくはない。だがアリスから憎まれ、捨てられたくもない」なんて、何が「典型的なジレンマだ」だよな。こんな優柔不断な男だから、ついついアリスに話しちまうんだ。「カーヴァーの目にジェーンは、父親よりも強い人間のように映ることがある」と思っていたのなら、この点をもっと深く考えなければなりません。もしも、そうしていたら、また、アリスもフリーの経済記者じゃなかったら、このような身の毛がよだつような悲劇は起こらなかったものを。今回、Brian Freemantleは、マフィアよりも怖いものを見事に描き出したと言えよう。

久々に思い出しながら紹介を書いていたら、気温が高いのに背筋が寒くなってしまった。しょうがないので、本屋へ行った。Diana Wynne Jonesの本も三冊ほど読んでいると云うのに、「7年ぶり、21世紀初のオリジナル短編集!」なんて、筒井康隆氏の「壊れかけた指南」を買ってしまった。手持ちの本は何時読み終わるのだろうか。そうそう、本郷図書館が新しくなった。今までは森鴎外記念館のなかにあったのだが、最近完成した汐見地区センターの中に引っ越したのだ。それはそれでいいのだが、広い場所に立っていた桐の木が元気なさそうに見えるのは気のせいだろうか。
<左:去年、右:今年>
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