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ミステリ・オペラ

■山田正紀氏の「ミステリ・オペラ 宿命城殺人事件」(ハヤカワ文庫、2005年8月31日発行)

娘達が10代の頃、彼女達が演奏や出演をすると云うので「魔笛」を何回か見た。彼女達は趣味なので、どうってことはないが、やはり音楽は才能なのだと感心したものだ。それにしても、趣味にしてはお金がかかったような気もする。ピアノのレッスンの最中に窓から逃げ出した身としては複雑な心境ではあるが…、まァ、二人とも今でも楽器で遊んでるので良かったのかなァ。愛知万博でインド人にもらった縦笛を弄りながら(実は全部押さえるとシの音が出るようだ、よく判らない。吹けたらいいのにな)、思うところではある。

Wolfgang Amadeus Mozart(1756年1月27日~ 1791年12月5日)は天才であるが、「魔笛」は素人の私から見ても不可思議なオペラであった。映画「アマデウス」のなかでも、「魔笛」の場面は何だか変な描かれ方だったような気もする。でも、「なにも『魔笛』だけが道化師のマントのようにつぎはぎだらけということはあるまいよ」と云うことなのだろうか。「魔笛」は、この作品の主要な構成要素である。

amadeus小城魚太郎は「『魔笛』は筋書きが無残に分裂してゐると云われてゐるオペラです。…一見、その分裂にはどんな必然性もないやうに見える」と言いつつ、「ザラストロは太陽に代表され、男性的で意識的で理性的なものを象徴してゐる。それに比して“夜の女王”は月に代表され、女性的で無意識的で原初的なものを象徴してゐる--つまり『魔笛』は混沌として原初的な女神が啓蒙的な男性神に征服される物語と考へていゝ。混沌として無意識的な女性原理のなかにたゆたつてゐたタミーノが理性的で意識的な男性原理に目覚める物語といつていゝでせう」と一気に云う。「どこかに無理がある」(無理がありますとも、まず征服など有り得ませぬ)。“夜の女王”のアリア「わが胸は怒りに燃え」が激発するに違いない。が、しかし、それが原因なのだろうか。

opera「宿命城(シユウミンツエアン)にあって、…この二つの転法輪の回転するところ、森羅万象、ありとあらゆる“時間”と“空間”が示されるのだという」のであれば、「赤死病館殺人事件」のなかで名探偵が云うように、「この世の中には異常なもの、奇形的なものに仮託することでしか、その真実を語ることが出来ない、そんなものがあるのではないか。君などは探偵小説を取るに足りぬ絵空事だと非難するが、…それにしても、この世には探偵小説でしか語れない真実といふものがあるのも、また事実」なのかもしれない。

では、萩原桐子のように「わたしがヒュー・エバレットの『量子力学の多世界解釈』という論文を信じる気に-それも一点の疑いもなしに-なった」、そして「“平行世界”の実在を証明」することに帰結するのか。平行世界、パラレル・ワールドはFredric William Brownの「What Mad Universe(発狂した宇宙)」やJohn Keith Laumerの「Worlds of the Imperium(多元宇宙の帝国)」などで、様々なバリエーションが生み出されている。結局のところ、「なぜ、歴史がいくつもあってはいけないのだ」(小松左京氏の「地に平和を」)と云うことになるのだろうか。「虫食い穴」と言えば、「カヴス・カヴス」(「実験小説 ぬ」)なのだが。

apart50年の歳月の流れのなか日本国と満州国とに跨る殺人事件。そこには、中国の入れ子式の箱のように、萩原桐子、朱月華、萩原祐介、善知鳥良一、占部影道、早見風弘らが登場する。それらを彩るヴァン・ダインやエラリイ・クイーンの小説のようなダイイング・メッセージ、甲骨文字、トランプの切れ端、冥府降下(アナスタシス)、そしてトランプ占いには「総て嘘であり夢であり…」のメッセージ。機械式蓄音機クレデンザ・スペシャル・モデル「鳥風琴」から流れる「魔笛」。ステンドグラスを通った光のように様々な事象の断片が交錯するなか、検閲図書館とは一体何か。黙忌一郎とは。「人有千秋志 家蔵萬巻書」。「こゝにをさめられてゐる蔵書はその人間の知識といふことになるだらうか。その膨大な知識量に圧倒される思ひ」がするような「はるか時空間の砂漠に横たわり、歴史の果てる末まで見とどけようとしているスフィンクス」。歴史はあるがままの姿から、あるべき姿へと変わるのか。ビリー・ワイルダーの「アパートの鍵貸します」の最後の5分は?「歴史は一体誰のものか?」、深く考えさせられる。

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Comments

うわ。これまた時空がねじれそうな・・・ってこの著者のデビュー作「神狩り」まだみつけられないんですけど。
(-_-;)

げ!文庫とはいえ上巻が945円??どーして最近のハヤカワは文庫にそんな値段つけるかな。知性化の嵐も全6冊で新品なら一冊1000円弱したから合計6000円ですぜ。そんな殺生な。

笛・・・燃えますね。タイコがあるとなおさら燃えます。学生時代、先輩の自宅の部屋で先輩秘蔵の謎の民族楽器コレクションの中からどこぞの国の笛をとりだして一人が吹き出した途端に、「夜中だから静かにしよう」という理性が吹き飛び音の魔力にとりつかれ薄暗闇の中で5-6人で身もだえしながらのセッションがはじまりました。

となりの部屋でおやすみになっていたお父上に怒られました(涙)。笛とタイコにはある種の魔性が潜んでいるとしか考えられません。

Posted by: koolpaw | Sep 20, 2005 22:13

koolpawさん、おはようございます。
「神狩り」、Amazonにありますよ。
それにしても、翻訳ものが高くなるのは解るのですが、日本の作家の文庫が900円と云うのはちょっと高いような気がします。まァ、ミステリ・オペラは厚いからな。
ところで、笛太鼓には魔性が潜んでましたか。
道理で祭りに出掛けたくてしょうがなくなる訳だ(笑)。dより

Posted by: dawn | Sep 21, 2005 07:08

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