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メディアの融合

■2005年3月9日付『署名で書く記者の「ニュース日記」』の「マネーゲームとメディア」に次のような箇所があった。

「インターネットと既存メディアの融合により、新しいビジネスモデルを作ることができる-という主張だろう。この可能性には多くの人がうなずくに違いないが、インターネットと既存メディアのどちらが主導権を握るのかになると、異論は熱を帯びる。」⇒これは誰の視点であろうか。

メディアとは何か。極論すれば、コンテンツを運ぶ単なる土管である。でも、この土管が全て同じ取入れ口で繋がると何が起こるのか。コンテンツ制作サイドとしては選択の余地がなくなると云うことである。

現状でも、日本のコンテンツビジネスは流通サイド(放送、広告代理店、通信も流通の範疇)が強過ぎる。この結果、制作会社は下請として大半が虐げられ、成長性を摘み取られてきた。この上にネットと放送とが融合してしまうと、さらに系列化、寡占化が進み、制作会社にとってマーケットの幅は一層狭まってしまうのではないだろうか。折角メディアが多様化すると云うのに。

言葉を変えると、日本のコンテンツビジネスは流通サイドが作った商習慣に縛られている。上映(もしくは放送)→DVD等のレンタル・セル→ペイテレビ→地上波(もしくは再放送)→その他利用(ネット配信含む)と云う枠組みが自由なメディアミックスを阻害してきた訳である。当然ながら新聞社もこのような枠組みの維持に協力してきた(宣伝広告業務上)。

制作会社に力があれば、最適なメディアを選ぶべく、マーケッティングミックスを自ら実施していくことになり、既存の枠組みに捉われない出口戦略を考えていくことだろう。コンテンツはメディアの添え物ではないのだ。従って、もしメディアの融合(?→新たなビジネス戦略の意とすると)が進むとすれば、それは「制作会社自らがマルチユースで作品を世の中に出していくと云う意味に於いて」と云うことであり、土管が一本化することではないのではないだろうか。作品から生み出される利益の最大化を図るには流通チャネルの増大が望ましいのに(既存メディアの系列も解体すべきではないだろうか)、その正反対を考えるなど、共同通信(新聞社及びその系列しか見ていない通信社)の方もやはりメディアのサラリーマン、ご自分たちの都合の良いことしか考えていないと云うことだろう。

別の観点から見ると、漸く動画のネット配信も一般化しつつあり、地上波がデジタル化していく中で、何でネット通信事業者が地上波との融合などと言うのだろう。同一フィールドで闘えるようになりつつあるのに、これからスポンサーモデルが崩れていくであろう放送会社との融合など理論的に可笑しいのではなかろうか。加えて言えば、AOLタイムワーナーの例を引くまでもなく、欧米に於けるメディアのコングロマリット化はコンテンツ面から言えば既に失敗したと言われている。今更ながら、同じようなことをしたいなどと言う方は、コンテンツビジネスをよく研究しているのか疑問に感じざるを得ない。率直に「地上波が制作会社から掠め取ったコンテンツの権利を買収したいのだ(注)」といった方が分かりが良い。

(注)地上波とネット配信とは著作権法上では扱いが違う(送信可能化権の問題)が、ここでは捨象する。

石田衣良氏のアキハバラ@DEEPに「知的生産物は宗教のように熱心なファンからの喜捨で支えられるようになると、私は考えている。これは決して縮小均衡にはならないはずだ。」と云う文章があった。このようになるかどうかは判らないが、やはり一番重要なのはコンテンツなのだ。これらを誰が創っているのか、この視点が欠けた議論が多いことを不思議に感じ、また創造性のない土管業者が何を言っているのだろうかと感じているのは私だけだろうか。

なお、報道(個々の報道記事は私が言うコンテンツとは性格を異にする部分がある)に関しては、編集権と云う名の下にジャーナリスト(言ってみれば制作者)が縛られることの是非をよく考えた方が良いのではないだろうか(老婆心ではあるが)。マスメディアはお祭り騒ぎが好き。今回の件も、ご自分の業界が地盤沈下しているのだとは全く考えずに騒いでいるだけのような気がする。もっと本質的かつ多面的に物事は考えて欲しいものだ。

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マスメディア」カテゴリの記事

Comments

お久しぶりです。エントリーに関係ないTBを送ってしまいました。
メディアの融合というテーマは私もいずれ書こうかなと思っていたテーマです。前にもdawnさんと新聞とテレビについて書き始める手前まで行ったのですが、自分の勉強不足が見えたので深みにはまりたくなく、書かずじまいでここまで来てしまいました。上手くまとまるようだったら公開しますので、その時は痛烈な批判(笑)をよろしくお願いします。

Posted by: pon | Mar 09, 2005 17:51

ponさん、こんにちは
私も感情的に纏まりのないものを書いてしまいました。ponさんの公開をお待ちしてます。痛烈な批判なんて滅相もない(笑)dawnより

Posted by: dawn | Mar 09, 2005 17:59

そうですよね。
日本では、メディアが少ない(規制により)事で、
「作り手」より「流通」の方が力を持っているんですよねー。
その構造を守ろうとした「改革」なんて、
改革でもなんでもないでしょって事ですよね。
それが本質だってのは、本当にその通りだと思います。

Posted by: めたか | Mar 10, 2005 06:43

おはようございます。
どのような業種にも共通すると思いますが、
外の人、中の人では、決定的に視点が違うと思います。
中の人には「メディアミックス」と言われても、
恐らく他にどこと融合させるかなど、想像もできないかも
しれません。
引用されていた一時期有名だった「署名日記」、
昨晩、じっくりといろいろ読みましたが、基本的に
どれをとっても最後の主張・結論が曖昧なものばかりという
印象でした。では。

Posted by: 小島愛一郎 | Mar 10, 2005 10:12

小島さん、こんにちは
そうなんですよ。マスメディアの方々は状況の変化も掴んでいないので、抽象論で逃げるしか手がないのでしょう。dawnより

Posted by: dawn | Mar 10, 2005 11:29

TBありがとうございます。視野がせまい私にとっては非常に勉強になるエントリでした。
またしてもせまい内輪話ですけど、頭にくることが昨日あって、感情的なエントリを今日書いてしまいました。

Posted by: hakohugu | Mar 10, 2005 12:31

めたかさん、こんにちは
その通りです。コンテンツを創り出すサイドからの改革が必要だと私は思っています。dawnより

Posted by: dawn | Mar 10, 2005 13:10

とても共感する記事です。
この一月、自分のブログの更新をサボって何を仕組んでいたのか、これから数ヵ月後にカタチにしていきます。
地元の新聞社と組んで退職した記者OBの方々に一肌脱いでもらい、新しいブログジャーナルの可能性を試す準備に入っています。
名前は「慢報=スロージャーナリズム」。ゆっくり考え、じっくり読み込もうという趣旨です。

表層を流れるニュースに幻惑されているだけじゃ見えてこないものを探りたいのです。

Posted by: MAO | Mar 11, 2005 15:43

MAOさん、こんにちは
新しい試みを次々と始められているご様子で、楽しみですね。期待してます。dawnより

Posted by: dawn | Mar 11, 2005 17:59

dawnさん、こんにちは。

確かに、メディアも含めて「製作」する側よりも「流通(販売)」する側が力を持っているという構図はおかしいと思います。
NTT問題のときに少し触れましたが、質の高い番組は、結局「製作」する側の努力の結晶なのですよね。

Posted by: あざらしサラダ | Mar 12, 2005 15:13

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